赤手空拳 3





三蔵と悟空は との会話の後 とにかく悟浄と合流しようと考えた。

三蔵にとっては 悟浄の安否など どちらかと言えば 

気にならないことなのだが、にはそうでない事は 解っている。

もし この世界に 悟浄だけを残していくような事にでもなったら、

あの優しい女は 自分を許してくれるか解らない。

あの河童のことで に嫌われるのはごめんだ。

三蔵はそう考えていた。

悟空は さっき三蔵が伝えてやった の言葉を それはうれしそうに聞き、

の元に早く帰る事を、まずは目標としてかがげた様だった。

悟空のを慕う気持ちは 母親に向けるそれに似ている。

そこまで 素直に現せる悟空が うらやましくもある三蔵だった。





悟空と2人で あてもなく闇深い夜の森を歩くが、

目指す悟浄にはなかなか会えない。

「あのクソ河童 何処に行きやがった。

悟空 何か臭うか 聞こえるとかしねぇのか?」

「ん〜 何も臭わないよ。

あっ、待って。悟浄のハイライトの臭いがする。」

「どっちだ?」

「こっちの方からだと思う。」

その悟空の答えに 無言でそちらへと歩き出す。

暫くいった頃には 三蔵の鼻腔にも悟浄の愛煙する煙草の臭いが 

解るようになった。

「お〜い 悟浄!」

悟空は 悟浄の姿を認めると うれしそうに駆け寄った。

「おう 猿じゃねぇか。 お前 何でこんな所にいるんだ?

おい 三蔵も一緒って事は はどうした? 八戒が付いているのか?

無事なんだろうな。」

三蔵と悟空の2人に 悟浄はの無事を尋ねた。

悟浄の言葉に 三蔵の眉間にしわが深くなる。





三蔵には 面白くはないが、悟浄にも 現在の状況を説明してやった。

黙って聞いていた悟浄は、「まあ が無事だと言うのは わかったし

八戒が一緒だから もし お客さんが来たとしても 何とかなるんじゃねぇの。」と

のん気な事を言って あいかわらず 煙草を燻らしていた。

「ここから 帰るためには 敵さんを倒せばいいってこと?」

「いや は 詳しくは語らなかったが、それだけでは 元に戻れないだろう。

必ず 3人でいてくれと念を押してやがった。

たぶん 戻る時には の神力で 引っ張ってもらわねぇと ダメだと思う。」

「ふ〜ん お姫さんの力が 頼みの綱ってことか。

今までも 尻に引かれてたけどよ これで 益々 頭があがんねぇんじゃねぇの?

『三蔵法師』様も 好きな女には 形無しだねぇ。」

悟浄は楽しそうな口ぶりで 三蔵をからかった。

「ここに置いてくぞ。」と すごむ三蔵。

「いや 遠慮しときます。」と 言う悟浄。

その いつものようすに なんだか 3にんの肩の力が抜けた。




とりあえず この世界に閉じ込められた3人が揃ったので、

むやみに動くことは 止めにする。

三蔵は 悟浄を拾った事を に言おうとしてみたが、どれほど念じてみても

には声が 届かなかった。

自分でやってみたことで 三蔵は会話をすることが 

かなり疲労するということがわかった。

先ほどは全然疲れなかったところを見ると の力で 行われていたらしいと思い

愛しい女を心配し ただ暗い空を 見上げた。

からの呼びかけを待つということが決まると、3人は火をおこした。

後は 敵が現れて 倒すことを 最優先にすると説明をする。

悟空も悟浄も 基本的には 2人で絡んで騒ぐ方だが、それも 誰かが平和的に

止めてくれると思うからこそ 出来ることで、

止めてくれるのが 三蔵となれば 命が危ない。

自然 静かにすごす事になる。




それに いつ から呼びかけがあるか解らないので、

三蔵は 2人に静かにしているように申し渡しておいたが、

いやに言いつけを守る2人に 三蔵はの影響の強さを思い知った。

そうして 暫くたった頃。

「三蔵・・・三蔵、聞こえますか?」瞑目していた三蔵の頭の中に 

の声が聞こえてきた。

「あぁ 聞こえる。」

「悟浄とは会えましたか? その後 何かありましたか?」

「河童とは 合流した。今 3人でここにいる。

敵の襲撃には あっていないが、そちらはどうだ?」

「あぁ 良かった、悟浄に会えたのですね。こちらは 八戒も私も無事です。

ご心配なき様に 三蔵は そこの敵を倒すことに集中してください。」

「ん 解った。

この会話は の力なのだろう 大丈夫か? 

さっき やろうとしてみたが 疲れただけで

何も聞こえなかったからな。負担になっているのだろう。」

「多少はありますが この位の事で 三蔵の無事が確認できるのなら お安い物です。

会話を 三蔵からなさろうとしないで下さい。

三蔵には そちらで 戦わなければならない相手がいるのです。

無駄に力を使わないように していただきたいのです。

私の考えでは眠っている三蔵たち3人が戦う場合、精神的な力を使う事になるでしょう。

実際には持っていないはずの銃や如意棒や錫杖は 

精神力を具現化したものと考えてください。

だから 悟空と悟浄に 喧嘩は絶対にしない様に言ってください。

そちらの世界での言い争いは かなり疲れるはずです。

それから 3人をそちらの世界の中で捜すのは大変なので、

私の目印をお渡ししますから失くさないようにお持ちください。

三蔵 2人の事をお願いしますね。では また・・・・・・」




そう言って の声は 遠くなった。

三蔵が 瞼を上げると 自分を見つめている 悟空と悟浄の視線を感じた。

「おい 天女のお守りが降って来るぞ。」

三蔵は 立ち上がると上を見上げた。

星もない暗い闇から淡い光に包まれて薄紅色をした何かがひらひらと舞い降りてきた。

三蔵・悟空・悟浄のそれぞれの差し出した手の平に 優しく降り立った。

何かと思い見てみると、それは蓮の花びらだった。

手の中でも淡い光は失われていない。

「三蔵 これ何?」悟空が 問いかける。

「こちらの世界に念を飛ばす時に俺達が見つけにくいそうだ。

それで 目印にがこれを送って来たらしい。

失くさないように持っていろと言っていたぞ。

これは 蓮の花びらの形をしているが、たぶん の神力を具現化したものだろう。

お前たちにも伝言がある、この世界は精神力で戦わなければならないらしい

帰るまで喧嘩はするなとが言っていた。

俺は1人で帰ってもいいが、に会いたかったら言われた通りにしろ、いいな。」

三蔵の言葉に 悟空と悟浄は頷いた。






----------------------------------------------------